第64章 嵐の夜に
何処をどう歩いたのか分からない。
彼女と別れた後、テレビ局を出た俺は雨足の強まる中、ずぶ濡れになりながら歩いた。
彼女から突きつけられた事実。
刃の様に、俺の中を深く抉った。
けれど彼女は。
俺が潤とよりを戻して幸せに浸ってる間、もっともっと深く…抉られていた。
隣で笑いながら…ずっとその傷を抱えて生きていた。
もしあの時俺が潤と別れていなければ。
彼女もこんなに苦しまなかったのかもしれない。
全ての元凶は俺なんだ。
俺のせい。
俺だけのせい。
ポケットに入れたスマホを取り出し、電話をかける。
待ってくれていたんだろう。
直ぐに通話状態になる。
潤『もしもし翔?長かったね』
「ごめん…」
潤『謝らなくていいよ。お疲れ様』
優しい潤の声。
どんどんずぶ濡れになっていく俺とスマホ。
潤『翔?』
「っっ…ごめ…ごめんなさい…」
潤『どうした?何かあった?』
「ごめんなさい。やっぱり無理。俺達もう無理だよ…」
潤『翔?どうした?今何処?』
「全部俺のせいだよ。本当に…ごめんなさい。愛してくれてありがとう…潤。選んでくれて…ありがとう」
潤『翔?何言ってんだよ。今何処?迎えに行くから』
「お願いもう俺を選ばないで…」
潤『翔…さっきから何を…』
「もう俺は幸せを貰ったから。だから…彼女を幸せにしてあげて…お願い…」
潤『翔…?彼女って…』
「さよなら…」
潤『翔!待て!ちょっ…』
そのまま通話を終え、電源を切った。
「ふっ、うっっ、うぇぇっ…!」
雨と風の音に俺の泣き声は消されていった。