第64章 嵐の夜に
真央「お疲れ様です」
真央マネ「お疲れ様です」
翔マネ「お、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
業務的な挨拶をした後、作動するエレベーターの中は変な緊張感が張り巡らされる。
彼女を見ない様に、黙って天井を見つめる。
真央「櫻井さん」
ふと名前を呼ばれ、反射的に彼女を見つめる。
「………はい」
真央「私に何か言いたい事、あるなら聞きますよ」
「は…?」
表情を変えないまま、淡々と話す彼女。
「何をですか…」
真央「何をって。そんな殴りたそうな顔して。ひとつしか無いでしょ」
真央マネ「井上さん止めましょう」
彼女のマネージャーが止めに入ろうと腕を掴む。
けれど彼女は…俺を見据えたまま、一歩、近付いて来る。
「こんな所で止めませんか。それに…出来れば貴方とは話したくないです」
真央「誰も聞いてませんよ。それに…私は貴方と話したかった。言いたかった事あります」
「………何ですか」
真央「奪われる側の気持ち、分かったでしょ?」
「っっ…」
表情の変わらない彼女を見つめながら、俺はぎゅっと拳を握り締める。
そのタイミングでエレベーターが到着する。
俺は…走ってその場を後にした。