第62章 Distance
地下駐車場に降りるとクラクションが鳴る。
見ると斗真が車内から手を振っていた。
早足で駆け寄り、車に乗り込んだ。
「ありがとう。お願いします」
斗真「いえいえ。忘れ物ない?」
「うん」
頷くと車がゆっくりと発進した。
斗真「具合はどう?」
「少しはいいみたい。薬が効いてるんだと思うけど」
斗真「そっか。明日は仕事?」
「ううん、休み」
斗真「よかった。ゆっくり休めるな」
「でも実家に行かないと。太陽迎えに行かなきゃなんないし…何処か引越し先考えないと…」
斗真「引越し?」
「………家出ないといけないから」
斗真「そっか…でも…」
運転の合間に斗真がチラリと俺を見つめる。
斗真「夫婦の事に口出すのはどうかと思うけどでも…もう少しちゃんと話し合ったら?」
「………話したくないんだ。話し合っても…蒸し返すだけ。彼女の顔…名前…思い出すだけで無理なんだ。もう戻れないよ…」
斗真「………そっか…ごめんな。勝手な事言って」
「そんな事ないよ。斗真が心配してくれて申し訳ないけど…今日は斗真が居てくれて嬉しかったから」
斗真「本当に?」
「うん。本当にありがとう」
気が付けばもうホテルの駐車場に着いていて。
俺は車を降りようとシートベルトを外した。
「本当にありがとね斗真。また…」
ドアを開けようとすると、腕を捕まれた。
振り返ると…真剣な眼差しで俺を見つめる斗真の姿が…そこにあった。