第62章 Distance
「斗真…」
斗真の撮影は少し早くに終わったから帰ったと思っていた。
斗真「少しは顔色よくなったね。良かった」
斗真が近付き、俺の顔を見て微笑んだ。
「待ってて…くれたの?」
斗真「だって仕方ないよ。心配だったんだから」
「斗真…今日はありがとう」
「お礼言われる様な事はしてないよ。でもどういたしまして」
「ふふっ…」
思わず笑みが溢れると斗真も笑った。
斗真「良かった。笑ってくれた」
「………ありがと」
斗真「………今日車で来てんだ。良かったら送るよ。どう?」
「え…」
斗真「翔くんが良ければだけど。送らせて欲しい。心配だから」
「………」
斗真「駄目、かな…?」
いつもの俺なら断るのだろう。
でも今の俺には…心地よかった。
斗真の優しさが…温かかった。
「………お願いします」
斗真「良かった。じゃあ駐車場で俺待ってるから」
「うん」
斗真「じゃあ後で」
手を振りながら斗真が出て行く。
斗真の気持ちを考えると…止めるべきだと思う。
でもやましい気持ちはない。
俺は潤とは違う。
あんな…簡単に人を裏切る様な人間じゃない。
それに…そんな人間でも…まだ潤を愛してるから…。
「駄目だ…また…」
零れそうになる涙を堪えながら俺は楽屋を出た。