第10章 誕生
「お帰りなさい」
翔父「ただいま」
「今日は早かったね」
翔父「ん?ああ。会議がスムーズに進んでな」
「そっか」
父さんの鞄を受け取り、靴を片付ける父さんの背中を何気に見つめた。
翔父「潤くんは…まだ忙しいのか」
「………うん。でも大丈夫」
翔父「………無理するなよ」
「ん?」
翔父「産まれるまで潤くんもうちに泊まればいい」
「え…」
予想外の父さんの言葉に俺は足を止めた。
「良いの?」
翔父「その方が潤くんも安心だし…お前も寂しく無いだろ」
「ありがとう。伝えとく」
翔父「遠慮するなと伝えておきなさい」
「うん」
父さん…変わったな。自分から潤に歩み寄ろうとしてくれてる。
嬉しい。
俺は微笑みながらリビングに入ろうとドアノブに手を掛けた。
「あ、いっ、つ…」
急にお腹に痛みが走った。
翔父「翔?」
「あ、平気。何か急にお腹が…」
その瞬間、ズンと鈍い痛みに襲われる。
「あ、あっっ…!!」
翔父「翔!?まさか…」
お腹を押さえ、その場に崩れ落ちる俺を父さんが慌てて支えてくれた。
「い、痛い…っっ…!」
翔父「大丈夫だ。落ち着け翔。深呼吸だ」
「う、ん…はぁっ…ふぅっ、ふぅっ…」
翔母「翔!?」
異変に気付き、母さんがリビングの扉を開く。
翔母「陣痛来たの!?」
翔父「みたいだ。早く救急車!」
翔母「はい!」
母さんが走ってリビングに戻った。
痛い…。
嘘だろ…。
陣痛て…こんなに急に来るもんなの?
「っっ、はぁっ…ふぅっ…」
潤…潤…!
俺は必死に呼吸をしながら心で潤を呼び続けた。