第58章 cleavage
ー翔sideー
楽屋を出て地下駐車場に続くエレベーターへと向かう。
ボタンを押して待っているとやがてエレベーターが開いた。
「え…」
俺が声を出すと…彼女は少しだけ気まずそうな顔をした。
真央「………櫻井さん」
「………真央ちゃん。どうしてここに…」
リハーサルスタジオに彼女がやって来るなんて。
彼女は女優。
ここに用は無い筈だ。
でも…誰かに会いに来たのなら…。
その誰かは…。
彼女と見つめ合った数秒間、色んな事が頭をぐるぐる回った。
真央「あの…ごめんなさい」
………何で?何で謝るんだ。
真央「………潤くん…ここに居るって…」
「あぁ…今打ち合わせ中で。もうすぐ終わると思うんだけど…」
真央「そうなんですか…じゃあ櫻井さんお願いしていいですか?邪魔しちゃ悪いから」
「え?」
すると彼女が徐に鞄から包みを取り出し俺に差し出した。
「………これは?」
真央「この間…潤くんに借りたんです。それを返しに。昨日連絡したら今日は夜までここって言ってたんで」
「………そうですか」
包みを開くと確かに潤の愛用しているハンカチ。
しかも…以前に俺が潤にあげたもの。
何で…ハンカチ…。
「会わなくて…いいんですか?もうすぐ終わるし…呼んで来ようか?」
真央「ううん。ハンカチ返したかっただけだから。後でお礼のメールでもしておきます」
「………そう」
真央「それじゃ…また」
「………また」
彼女がエレベーターに乗り込む。
俺も乗るつもりだったのに…足が動かなかった。
扉が閉まっても…俺は暫く動けなかった。
どうして…潤…。
真央ちゃんと会ったの?ハンカチ貸したの?
何で彼女がわざわざここに返しに来るんだよ…。
潤…何で…?