第56章 Struggle
ー潤sideー
「あれ…翔?」
病室に入るとそこはもぬけの殻。
専用のトイレを覗いても翔は居なかった。
「何処行ったんだろ…」
俺は病室を出て翔を探した。
看護士「松本さん…!」
不意に呼ばれ、振り返ると病棟の看護士さんが居た。
「どうも。遅くなってしまって…」
看護士「いえ。あの…」
「………翔は…妻は…」
看護士「………こちらです」
看護士さんの後を続いて行くと…何故か病室からかなり離れた新生児室に連れて来られた。
「………翔…」
翔はそこに居た。
ぼんやりと立ちながら…ガラス張りの窓越しに見える小さな赤ちゃんを見ていた。
看護士「………奥さん戻そうとしても…動かなくて」
「………いえ。ありがとうございます。後は俺が」
看護士「すみません。お願いします。それとさっき…記者の方がここにいらして…」
「え?」
看護士「奥さんに色々聞かれてたみたいなんです。直ぐに警備員の方を呼んだんですが…」
「そう、ですか…ご迷惑お掛けしてすみません」
看護士「いえ」
頭を下げると看護士さんが首を振り、立ち去って行く。
俺の存在にまだ気付かないのか、ぼんやりと…翔はそこに立っていた。
儚くて…今にも壊れてしまいそうだった。
絶対…壊させない。
俺が…守るんだから。
ゆっくりと近付き、後ろから翔を抱き締めた。