第56章 Struggle
「翔。頼むから!このままだと翔の身体まで危なくなるだぞ?」
翔「嫌だ…!生きてる!この子は生きてるんだよ!堕ろすって何?」
鞄を掴んで仕事に向かおうとする翔の腕を俺は離す事が出来なかった。
赤ちゃんが天国に召されて2週間が経とうとしてる。
翔は未だに処置を拒絶したまま。
早くしないと…翔の命にも関わるのに。
玄関では…翔のマネージャーが困った様に立っている。
翔「潤は…欲しくないの?赤ちゃん欲しくないからそんな事…」
「何言ってんだ!欲しいに決まってんだろ?そんな事言うなよ!」
翔「………だって…」
か細い声でうつ向く翔を抱き締める。
「子供は欲しい…でも…翔の命を危険にまでさらして欲しいとは…思えないよ…」
翔「………潤…」
「頼むから…」
翔「………ごめん…俺には出来ない…赤ちゃん殺すなんて…」
翔の手が俺を押しながら離れる。
翔「行ってくる…」
「翔!」
俺の呼び掛けにも振り返らず、マネージャーより先に出て行ってしまった。
翔マネ「松本さん。帰りにそのまま私が病院に連れて行きます」
「………本当?」
翔マネ「ええ。櫻井さんの命に関わる事ですから。無理矢理にでも…。仕事中もちゃんと見てますから」
「分かった。頼む」
翔マネ「はい。それじゃ」
頭を下げて翔マネが出て行く。
俺が…休みだったら…無理矢理にでも…。
頼む…まだ何事も起こらないでくれ…。
俺は…何度もそう祈った。