第44章 亜香里の想いと和也の決意
その日は…通帳を預かった日から数日でやってきた。
全てを託した亜香里さんは…安心したのだろうか…。
覚悟はしていた。
でも…来ない事を願っていた。
けれどその日は…来てしまった。
智香「ママ…ママっ…」
手を握り、何度も亜香里さんの手を握る智香ちゃんの声にも亜香里さんは反応しない。
部屋には…ピッ…ピッ…という電子音がやけに大きく聞こえる。
先生や看護士さんは…静かにその様子を見つめている。
ホスピスでは…緩和ケアが目的だから蘇生措置はしない。
静かに…ただ静かにその瞬間を見守るしか出来ない。
反対側でさとしも静かに亜香里さんの手を握っていた。
こうする事しか出来ないのか…。
せめて…せめて最後に…亜香里さんが喜ぶ事…。
さとし…。
「さとし…亜香里さんを抱いてあげて」
智「え…」
「きっと喜ぶから。最期の旅立ちは…愛する人の腕の中がいい筈だよ。俺が亜香里さんならそうしたいから」
智「かず…」
「ずっと愛してたんだよ。抱き締めてあげて」
そしてさとしは…亜香里さんの身体を起こし、強く抱き締めた。
智「亜香里…。ありがとう。こんなおいらを愛してくれて…。智香を産んでくれてありがとう。約束は守るから…。ゆっくり休め…」
涙を流しながら…亜香里さんを強く抱き締める。
そして…
ピー……………
「………亜香里さんっ…」
医者「失礼します」
先生が亜香里さんの脈を取る。
医者「………午後6時15分。御臨終です」
智「っっ…亜香里…!」
智香「ママっ…ママぁっ!!」
泣きじゃくる智香ちゃんを後ろから抱き締めながら…大粒の涙を流した。
俺の…人生最大の恋のライバルは…26年という早すぎるその生涯を…愛した男の腕の中で閉じた。
沢山の大きな物を…俺達に残して…。