第44章 亜香里の想いと和也の決意
亜香里さんとの再会から…俺達は毎回の様に会った。
沢山話をした。
同じ男を好きになった者同士だから…趣味が合うのかな。
いつも話が弾んだ。
楽しかった。
子供が産まれるのも…亜香里さんは心待ちにしていた。
でも運命は残酷で。
俺のお腹が大きくなると共に…亜香里さんの身体は衰弱していった。
次第にベッドからも起き上がれなくなり…一日の大半を寝て過ごしていた。
「亜香里さんりんごすったけどいる?」
亜香里「………もらおうかな…」
小皿に入ったすりおろしりんごをスプーンですくい亜香里さんの唇に持っていく。
亜香里「ん…おいしい…」
「よかった」
けれど数口食べるともう受け付けなくなる。
疲れた様にまた目を閉じてしまった。
智香「ママ…」
心配そうに智香ちゃんが亜香里さんを見つめる。
亜香里「ごめんね智香…ちょっと疲れた…」
「少し寝る?」
亜香里「うん…ありがと…」
暫くすると亜香里さんの呼吸が規則正しくなる。
眠ったみたいだ…。
「智香ちゃん…ジュースでも飲む?」
智香ちゃんは静かに首を横に振る。
「そっか…」
ずっと亜香里さんの手を握り続ける智香ちゃんを見つめながら…俺はソファーに腰掛けた。
この病院に来てから…智香ちゃんは片時も亜香里さんから殆ど離れようとしない。
智が居る時に少し離れる位で…。
俺に至ってはあまり目を合わせてくれない。
分かってる。
この親子の過ごしてきた10年は…普通の親子より特別濃いものだと。
それを分かってるからこそ俺は…智香ちゃんを引き取る決意をした。
けれど…不安になる。
代わりになれるとは思わないけれど…代わりにならないといけない。
俺に出来るのだろうか。
この子を娘として…智也と…お腹の子供と…同じ愛情を注ぐ事が…。
そして…目の前のこの子は…いつか俺に心を許してくれる日が来るのだろうか…。
2人の姿を見ながら…俺は静かにお腹を撫でる事しか出来なかった。