第44章 亜香里の想いと和也の決意
ー和也sideー
「あれ…?」
亜香里さんの病室に入るとそこには誰も居なかった。
キョロキョロと辺りを見渡すと…中庭に出る窓が開いている。
見ると外で楽しそうにはしゃぐ智香ちゃんを見つめながら話してる2人の姿。
とりわけ亜香里さんは明るくて楽しそうにさとしを見つめている。
まるで…病気だというのが嘘の様に…幸せそうだった。
けれど初めて会った時よりも随分と痩せこけたその身体は…確実に病魔が彼の身体を蝕んでいっているのが明白で。
先生から言われた現実も…辛すぎるもので。
それでも…あの病院で見た沢山の点滴の管に繋がれ病気と孤独と戦っていた時よりは…綺麗な亜香里さんがそこに居る。
これでいいんだ。
もう治らないならせめて…苦しまないで欲しい。
遺された時間を…智香ちゃんと…さとしと過ごして欲しい。
それが俺の…務めだから。
「亜香里さーん」
声を掛けながら2人に近付いて行くと俺に気付いた2人が笑顔で手を振ってくれた。
「体調大丈夫?」
亜香里「うん、今日は気分いいよ。ありがと」
話してると智香ちゃんが駆け寄って来る。
智香「パパ。向こうに綺麗なお花が咲いてるよ」
智「そうか?見たいな」
智香ちゃんが手を引いて2人はまた向こうに行ってしまった。
俺と亜香里さんがその場に残った。
亜香里「立ってて辛くない?大丈夫?」
「平気だよ。臨月じゃないから」
亜香里「そっか。触っていい?」
「うん」
亜香里さんの手がゆっくりと俺のお腹を撫でる。
亜香里「………出来ればこのこの子の顔を見てから逝きたいな」
「亜香里さん…」
亜香里「………ママを大切にね。無事に産まれて来るんだよ」
「………」
亜香里「………智香と仲良くしてね」
「きっと出来るよ。だって姉妹なんだから」
そう言うと亜香里さんは嬉しそうに微笑みながら…俺の手を握った。
亜香里「………和也さん。ありがとう…」