第44章 亜香里の想いと和也の決意
ー智sideー
亜香里「智」
智香「パパ!」
「よぉ。具合どうだ?」
亜香里「今日は割といい方だよ。ありがとう」
「そっか」
ベッド横の椅子に腰を下ろすと智香が寄って来たので膝に座らせる。
「ママと居られて嬉しい?」
智香「うん」
嬉しそうに智香は微笑む。
あれから病院を移った亜香里は今は都心から少し離れた病院に入院した。
大きな窓からは広い中庭が見える。
そのまま車椅子で降りられる作りになっているそこは…ホスピスと呼ばれる病院。
所謂…緩和ケア専門の病院だった。
ここに入院している患者は亜香里と同じ、末期癌の患者が殆どで…人生の最期の日まで穏やかな生活を過ごしている。
亜香里「和也さんは?」
「今先生と話してるから後で来るよ」
亜香里「そっか…」
「よし。外出ないか?」
亜香里「え?わぁっ!」
戸惑う亜香里をおいらは抱き上げ車椅子に乗せた。
亜香里「さ、さとし…」
「智香押せるか?」
智香「うん」
窓を全開に開け、智香と一緒に車椅子を押して外に出た。
智香「わーい!」
一面に広がる草原の様な庭を智香は楽しそうに駆け回る。
それをおいらと亜香里は笑いながら見つめていた。
亜香里「智」
智香を見ながら亜香里が口を開く。
「ん?」
亜香里「………ありがとう」
「何言ってんだよ。それにこれは…かずの提案だしな」
亜香里「………本当に…あの人には勝てないな。俺だったら…こんなに優しく出来ない。いくら死ぬ人間でも」
「死ぬとか言うなよ」
亜香里「………ごめん。でも…死ぬ前に…こんな素敵な時間が過ごせるなんて思わなかったから…もう会えないと思ってた智香と毎日一緒にいられるなんて…」
「………」
亜香里「智の奥さんが…和也さんで良かった…」
「亜香里…」
亜香里「大事にしてよ?和也さんの事。俺が言う筋合いは無いけど…もう泣かせないで」
「勿論だよ。もう絶対…泣かせない」
声が聞こえたので振り返ると…かずがこちらに向かいながら手を振っていた。
近付いて来るかずに手を振り返しながらおいらはもう「絶対に泣かせない」何度もそう誓った。