第36章 翔の家出
振り返ると…ゆっくりと1番奥の扉が開く。
「………」
そのまま佇んでいると…ゆっくりと俯いたままの翔が個室から出て来た。
翔「………」
「………」
「翔」
翔「………」
「………おいで。話そう」
翔「………」
黙って手を差し伸べると…翔はゆっくりと手を乗せる。
俺はそのまま手を引いて喫煙スペースの隣の自販機までやって来た。
「はい」
コーヒーを差し出すと翔は素直に受け取った。
まだ顔は俯いたままだけど。
「太陽…元気にしてる?」
翔「………うん」
「そっか。良かった」
翔「………」
それっきり翔は何も答えない。
「………翔。本当にごめんな。心から…反省してる」
翔「………」
「言った事…本当に覚えてないんだ。だからいいって事にはならないって分かってる。翔が家出る位怒るのも…当たり前だって思ってる。でも…戻って来て欲しい。駄目かな…?」
翔「………」
翔は静かに顔を横に振る。
「俺の事…そんなに許せない?」
翔「………」
「………分かった。もう言わない。でも…これだけは覚えておいて?俺は心から反省してるし…翔も太陽も愛してる。これまで仕事に打ち込んでこれたのは翔のお陰だ。感謝してるよ。俺は家で…2人が帰って来るのをずっと待ってるから。いつまでも」
手を伸ばし、翔の髪を撫でる。
反射的に翔が顔を上げた。
そのまま俺達は無言で見つめ合う。
翔「じ…」
「じゃあ戻ろうか」
俺は立ち上がり、翔の手を引いて楽屋に戻った。
思いは伝えた。
翔…きっと帰って来てくれるよな…。