第32章 Sexual harassment
それから数日は…何事も無く撮影は順調に過ぎていった。
大悦土木のシーンではマルが俺の側に居てくれた。
武家のシーンでは竹中さんがさりげなく俺をサポートしてくれて…。
視聴率もすこぶる順調。
少し悔しいのは…脚本家であるあいつの評判も上がってるっていう事。
確かに実力はある人だと思う…けど…。
「お疲れ様でしたー」
初めて…予定より早く撮影が終わり、皆穏やかな気持ちで解散する。
何故なら…今日橋本さんは居ないから。
頭を下げて急いで楽屋へと戻った。
今日はやっと…寝てない智也に会える…。
さとしとゆっくり過ごせる…。
そう思うと顔がニヤついてしまう。
「随分ご機嫌だね」
「っっ!!」
振り返ると…楽屋の入口で扉を閉めながらこちらを見つめる橋本さんの姿があった。
「ど、どうして…」
橋本「さっき来たんだよ。二宮…和也くんに会いたくてね」
カチャン、と…後ろ手に鍵が閉まる音がする。
「人…呼びますよ…」
橋本「そうかい。そんなに俺を嫌うのかい…」
「………」
橋本「ああそうだ。今度櫻井くんの映画の脚本…担当する事になってんだ。伝えておこうと思ってね」
「え…」
橋本「楽しみだね…彼は…どこまで我慢強いかな…」
クスクスと…楽しそうに広角を上げる。
「………止めて…止めてよ…」
橋本「何だい?」
「もう止めて下さいよ…」
橋本「それは…君次第だよ。和也くん…」
ゆっくりと…橋本さんが近付き、俺の目の前に立った。
橋本「素直に言う事聞いてくれたらいいんだよ君は」
彼の手が…俺の頬に触れる。
背筋が…ひんやりとした。
橋本「可愛いよ…和也くん…」
「や、いやっっ!!」
いきなりソファーに押し倒され、橋本さんが馬乗りになる。
橋本「しーっ、静かに…」
「止めて…止めてくだ…」
その瞬間、彼の唇が…俺に押し付けられた。