第32章 Sexual harassment
ー和也sideー
橋本「駄目駄目!二宮くん違う!!」
監督「ちょっと止めてー」
「すみません…」
スタジオにまた橋本さんの声が響く。
今日は…何度目?
3回目?4回目…?
早朝から始まった撮影…今の時刻は13時。
けれど…予定の2時間押しになってしまっている。
橋本さんが…何度も何度も撮影を止めた。
その全てが…俺への駄目出し。
橋本「何度言ったら分かるんだ?このシーンがどんなに大事なシーンかって事位分かるだろ?もっと父親に自分の感情をぶつけなきゃビンタされる意味ないだろ!?何度言わせるんだ」
「すみません」
橋本さんに頭を下げると…ため息を付かれる。
橋本「全く…母子家庭に育ったから父親と息子の関係が分からないのかね…」
ボソッと、しかし聞こえる様なボリュームで橋本さんは俺に背中を向けながら言い放った。
「………」
監督「はぁ…。じゃあもう一度いこうか。皆さんスタンバイして」
拳を握りしめながら…俺は定位置に戻った。
「すみません…」
すれ違い様に父親役の竹中さんに頭を下げる。
竹中「大丈夫。やろう」
笑顔で返してくれたのが…せめてもの救いだった。
監督「はい本番」
ふと…こちらを見る橋本さんと目が合う。
俺を舐め回す様に…ニヤリと微笑んだ…。
くそっ…。
絶対やってやる…!
監督「よーい、スタート!」
監督「オッケー。それじゃ本日の撮影終了。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
スタッフ「お疲れ様でしたー!」
午前3時半。
予定より3時間遅れでようやく撮影が終了した。
でも…6時間後には…また撮影が始まる。
急いで帰ろう…帰って休みたい…。
橋本「二宮くん」
その呼び掛けに…俺は床に倒れる様な感覚に襲われた…。