第73章 押された背中
「すみません。宜しくお願いします」
集まった報道人の人達に俺は大きく頭を下げる。
「今回私が報道番組でお話させて頂いた事で不快になられた方々やお迷惑をお掛けした方々も多く居ると思います。ただ…私がお話させて頂いた事で同じ様な苦しみを持った人達の励みになれば…そして、そうでない方々にも性犯罪の重みという物を知って貰えればと思いました。今先頭に立って活動を続けられている大石真さんや色んな方々と私はこれからも報道番組を通じて…そして個人的にも…これからも活動を続けていけたらと思います」
言い終わった後、取材人の人達の顔を見渡す。
ほとんどの人達が…俺の言葉にうんうんと頷いていた。
「今回…櫻井さんの言葉に本当に多くの方達が賛同されて。私も本当に…こういった事をご自身の口でお話しされるのは本当に沢山の葛藤があったと思うんです」
「はい、そうですね」
「10年近く経ってから…お話ししようかと思った事には具体的な理由がおありなのでしょうか」
「………そうですね…この…約10年ですか。あの事は…忘れたくても勿論忘れる事が出来ない記憶として未だにあるですけど。ただ…ずっと…葛藤と後悔でした。自分の不注意のせいで…授かった命を失ってしまったという事。そして…息子が1人居るんですが…彼に兄妹を作ってあげられなくなってしまったという気持ち。そして何より…夫である松本の側にこれからもいていいのかと。今までは思い出す度に…恐怖でどうしようもなくなってました。その度に夫に支えられてきましたけど…大石さんの言葉を聞いて…これじゃ駄目なんだって思いました。気持ちに蓋をすれば…いつか忘れられる日が来るんじゃないかと思ってました。でも…それじゃ自分は変われなかった。だから蓋を開かないといけないと思いました。勿論その方法は人によって様々だと思います。ただ私の場合は…大石さんとお話しして…報道番組でお話させて頂く事が蓋を開く…歩いていくという事でしたね」