第73章 押された背中
大石「もし被告人が謝罪のひとつでもしてくれたら。あの日飲めないと何度も伝えた私に大量のお酒を飲ませた事。歩けなくなった私をホテルに連れ込んで…私に暴行を加えた事。謝罪があれば少しは…気持ちが変わっていたのかもしれません。けれど被告人は…その気持ちが1ミリたりともなかった。それどころか…職場の上司に話して私から好きな仕事まで奪った上に『合意の元で行った』なんて事。絶対…許しません。だから…立ち上がろうと。自分の身に起こった事に蓋をするのではなく…ちゃんと向き合い、立ち向かおうと思ったんです」
「大石さんが第一回目の口頭弁論の後で話されていた言葉…『あの日から…私の人生は動いてません。動かしたい…私の人生とちゃんと向き合って…もう一度動かしたいんです』という言葉…私は本当に胸を打たれました。それは………」
言葉に詰まり、思わずうつ向いてしまう。
大石「櫻井さん。大丈夫です」
そっと大石さんの手が俺に触れた。
「すみません。ありがとうございます」
天井を向き、大きく深呼吸をする。
「………私も…同じ性犯罪の被害者として心を打たれました。私は…自分の身に起こった事に…蓋をした側の人間ですから」
そして俺は…カメラの前でついにその言葉を発した。