第73章 押された背中
「初めまして。櫻井翔です。本日は宜しくお願いします」
大石「初めまして大石真と申します。宜しくお願いします」
ホテルの一室。
カメラの回る中、俺と大石さんは握手を交わした後、ソファーに向かい合って腰掛けた。
最初は柔らかい話から始まり、少しずつ…事件の事を話していく。
少しずつ…本題の話へと。
「大石さん。大石さんが…こうして性犯罪の被害者だという事を実名を出してまでカメラを通して訴え続けているのはどうしてでしょう」
大石「………性犯罪。性的暴行。いわゆるレイプ被害。これって…他の事件に比べると立件数が本当に低いんですね。どうしても…泣き寝入りといいますか。被害届さえも出されずに一生自分で抱え込む選択をする方々が殆どなんです。でも…私はそれをしたくなかった。私は悪くありません。被害者なんです。なのに泣き寝入りなんてしたくないそう思ったから…こうして訴えて立ち向かおうと思いました」
「成る程」
大石「事件が起こった後…被告人に言われた事で忘れられない事があります。『お前だって気持ちいい思いをしたんだからいいじゃねぇかこの淫乱。何がレイプだ。抱いてやっただけありがたく思え』」
「………そんな事…」
ぎゅっと…手に力が籠った。
大石「あの日の事は忘れません。泣きながら…看護士をやってる友人に電話して…病院に行って…震えながら事後避妊薬を飲んだ事。悔しさと恐怖で…」
「………」
気が付けば…いつの間にか俺の瞳から涙が溢れていた。