第73章 押された背中
ー翔sideー
何度目かの寝返りを打った後、ゆっくりと潤の腕から抜けて身体を起こす。
『あの日から…私の人生は動いてません。動かしたい…私の人生とちゃんと向き合って…もう一度動かしたいんです』
彼の言葉が頭から離れなくて眠れなかった。
『もう一度動かしたい』
人生とちゃんと向き合う。
あの事と向き合う。
家族が居てメンバーが居て…何より潤が隣に居て。
あの日から今まで…寄り添って助けてくれた。
だから…時間を掛けて少しずつ立ち直ろうと思っていた。
けれど…俺は立ち直れているんだろうか。
俺の身に起こった事。
どうしても忘れられない記憶。
そのせいで…子供を授かれない身体になった事実。
潤に守られて…幸せだと思う。
でも…俺自身は?
ちゃんと立ててるのだろうか。
あの人の様に自分自身の足で立ち上がり、立ち向かえて居るのだろうか。
潤「翔…どうした?」
振り返ると潤が目を擦りながら俺を見上げた。
「ごめん…起こしちゃった?」
潤「平気…眠れないの?」
「うん…頭が冴えてて…」
そう言うと潤が起き上がり、俺の肩に手を置いた。
潤「ZEROで観た…あの人?」
「………うん…」
潤「そっか…」
「潤…俺も…向き合いたい。ちゃんと…向き合いたい…」
そのまま潤にもたれると…潤は静かに俺の身体を抱き寄せてくれた。