第73章 押された背中
目の前に流れ出した映像。
それは…ある若い男性が裁判所の入口で記者達の質問に答えている映像。
それは…大手の出版社に務めていた彼が1年前、取引先の男性に性的暴行を受け、訴えをおこし、今日最初の口頭弁論が行われたという事。
被害を受けたというその男性は…カメラにしっかりと顔を出し、本名も公開していた。
『あの日起こった事は…レイプです。被告人には…それを認めてちゃんと罪を償って欲しい。私が望む事はそれだけです』
ハッキリとした口調で彼はそう訴えた。
翔を観ると…どこか泣きそうな表情で俺の手を強く握ってきた。
「翔…チャンネル変える?」
翔「………ううん。観る」
手に持ったリモコンを俺はまた静かにテーブルに置いた。
どうしてこんなニュースになったのか。
訴えるまでに1年掛かったのか。
被告人は…その日の事は『合意の元で行った』『レイプではない』と否認をしている。
しかも彼の元勤め先の取引先の重役とあって…上司にその事を揉み消されかけ、会社をクビになったと…元の職場を不当解雇でも訴えている。
『あの日から…私の人生は動いてません。動かしたい…私の人生とちゃんと向き合って…もう一度動かしたいんです』
涙を浮かべながらそう訴える彼の顔を…俺も翔も…きっとこれから先、忘れる事はないだろう。
そう思った。