第73章 押された背中
村尾「櫻井さん。どうされました?」
楽屋の扉が開くと打ち合わせを終えて一息付いた穏やかな村尾さんがそこに居た。
「あ、あの…」
村尾「………中で話しましょうか」
村尾さんに促され、楽屋に入った。
村尾「私コーヒーより緑茶派なので緑茶でも構いませんか?」
「あ、いや…あ…はい。すみません」
頭を下げて椅子に腰掛けた。
村尾「聞きましたか。私が9月いっぱいで辞めるって」
「………はい。たった今…」
村尾「そうですか…」
「………悔しいです。何で村尾さんが…」
村尾「改革が必要なんでしょう」
「でも…!」
「櫻井さん」
村尾さんがそっと俺の肩に手を置く。
「………嫌です。10年以上スタッフと一緒に築いてきたのに…その中心が…村尾さんだったのに…」
村尾「ありがとう。貴方とやれて良かったですよ。本当に」
「………チャラチャラしたアイドル風情に何が出来るって思ってたでしょ」
村尾「まぁそれは…否めませんけど」
村尾さんが笑ってくれたから俺も少し笑った。
村尾「でもそれは会ったその日に吹き飛びましたよ。こんなに真面目で熱心な若者が居たのかと…驚きました」
「………村尾さん…」
村尾「貴方は若者の視点からと色んな事をここから伝えてくれた。成長して…今は母として妻として…昔より沢山の事を伝えてくれた。こらからもここで…貴方が伝えられる事を伝えていって下さい」
「………はい…村尾さん…ありがとうございました。後少し…宜しくお願いします」
村尾「こちらこそ」
俺は涙を流しながら村尾さんと固く握手を交わした。