第72章 葛藤
「ふぅ…」
シャワーを浴び、身体を拭いているとふと、鏡に映る自分の裸。
「………」
そっと下腹部に手を当てると…うっすらと残る傷跡。
よく見ないと分からない程の傷。
けれど俺にとっては…何よりも深く、一生しがみついて離れない傷。
心と身体を何度も引き裂かれた。
そして…大切な命まで。
一生忘れられないこの傷跡は…今でも何度も俺を苦しめる。
あの日を記憶を呼び起こさせ…このせいで俺はもう子供を授かれない現実を叩き付ける。
『いやっ…ぐふっ…止めて…赤ちゃ…止めてぇっ!!』
『殺してあげる…ほらっ!死ね!死ねっ!』
何度もここに叩き付けられたあの男の足。
動けない身体でお腹を庇う事しか出来なくて。
でもあの巨体は…そんな抵抗を嘲笑う様に。
何度も…何度も…。
潤「翔?」
気が付くと潤は少し扉を開いて俺を見つめていた。
「え?あ、ごめん…」
潤「遅いと思って…一応声掛けたんだけど」
「ごめん…」
潤「………」
お腹を押さえて立ち尽くす俺を見て…状況を察した潤は無言でバスタオルを取り俺を包んでくれる。
潤「おいで」
そのまますっぽりと…俺は潤の腕の中に包まれた。