第12章 ♣あの娘が・・・
抹茶プリンを乗せたお盆を両手に持ち、強ばった顔に無理矢理笑顔を作る。
そう今は“智”じゃない。
“智子ちゃん”なんだから…と、自分に言い聞かせた。
「お待たせしました〜♡
智子で…す…」
そこにいたのは櫻井さん。
お盆を落としそうになる手に、グッと力を入れて、今にも崩れそうになる身体を、足を踏ん張って耐えた。
「立ってないで、座ったら?」
「は、はい…」
お盆をテーブルに置こうとした瞬間、抹茶プリンがガタガタ揺れて、天辺に乗せたサクランボがポロッと落ちた。
「あっ…」
どうしよう…
顔も身体も、全部が固まってしまって、俺はスカートの裾を両手でギュッと握り締めた。
「気にしないで?」
櫻井さんには落ちたサクランボを摘むと、それを口に入れた。
「うんめ~!!」
って笑顔を見せた。
特別高級でもない、どこにでも売ってる缶詰めのサクランボなのに…