第12章 ♣あの娘が・・・
店に着いた頃には息も絶え絶えで、セーターの下にはしっとり汗までかいていた。
先にメイクを済ませ、着替えをしようとしていた和を見ると、急に身体の力が抜けて、俺はその場にしゃがみこんだ。
「ど、どうしたの?」
心配顔で駆け寄る和に抱きつく。
「か、か、かずぅ〜…」
「な、な、な、なに?」
「お、お、お、俺…」
自然と涙が溢れて、そっから先が言葉にならない。
和は俺の背中をポンポンと叩くと、ギュッと抱き締めてくれた。
「さ、櫻井…さ…ん…に…」
感の良い和はそれだけで全てを察したのか、そっか…と言って俺の背中に回した手で、優しく宥めるように摩ってくれた。
「好きになっちゃったんでしょ? 櫻井さんのこと…」
俺は迷うことなく、和の胸で何度も頷いた。