第12章 ♣あの娘が・・・
店にもようやく慣れ、俺目当てに来る客も少しずつ増えてきた頃、それは突然訪れた。
しかも本当に偶然で…
店の最寄り駅で電車を降りた俺は、時間潰しに書店に寄った。
まぁ、立ち読み目的なんだけどね。
漫画雑誌を手に取りページを捲ると、お気に入りの漫画に目を通した。
その時、僅かだけど柑橘系の爽やかな香りが鼻を掠めた。
あれ、この臭いって…
隣に視線ををやると、見覚えのある顔。
やっぱりそれだ…櫻井さんだ。
どうしよう…
心臓の音が聞こえてしまうんじゃないか、ってぐらい煩い。
櫻井さんは俺に気付いていない様子で、雑誌を読みふけってる。
そりゃそうだ…
今の俺は“智子“ちゃんではなく、“智“なんだから、気づかなくて当然。
雑誌を元に戻し、振り返った瞬間、すれ違いざまに人とぶつかった。
「あ、ごめんな…さ…い…」
顔を上げると、そこに櫻井さんの顔が…
まじか〜(°_°;)
俺は猛ダッシュで書店を後にした。