第14章 Dear my doctor
櫻井side
本当は家に戻るつもりだった。
でも…打合せでの話を聞いた今、
とても帰れる心境じゃなかった。
まだなにも聞いてないみんなと
何もないように話す自信は無かった。
マンションの部屋に戻る。
下駄箱の上の定位置に鍵を置く。
いつもよりも投げ遣りな音が響いたのは
気のせいじゃない。
気持ちに引き摺られてるのか
体も重い気がする。
局の上の人が来ると聞いてたから
珍しく結んでたネクタイを
力任せに抜き取り、
着ていたジャケットと共に
ダイニングの椅子の背に掛け、
ソファーに寝転ぶ。
口から出るのは深いため息。
なんにも考える気にならない。
目を瞑ると浮かぶ、みんなの顔。
あぁ、今日、こっちに泊まるって
連絡しなくちゃ…。
極々短いメールを送信して…
携帯をローテーブルに滑らせた。
なんか疲れたなぁ。
この世界にいれば必ずつきまとう視聴率。
これも一つの評価基準。
どんなことをやっても視聴率が取れたら
この業界じゃ勝ち。
当たり前だ、テレビ局だって
ボランティアで番組を流してる訳じゃない。
視聴率が取れなければ
スポンサーがCM枠を買わない。
それが売れなければ
収入に影響が出るわけだ。
視聴率は枠の値段を決める大事な指標。
そんなことは判ってる。
分かりすぎるぐらい判ってる。
でも…なんだ?この重さは?