第61章 ミラク
Masahiro side
“今から帰ります”
雅紀からのメールに溜息をつきつつ
キッチンで作業を再開した
ものわかりのイイふりをして雅紀を送り出した
でも本音は行ってほしくなかったし
家で一人…帰りを待ちながら
イライラは収まることはなかった
だから仕方なくキッチンに籠もって料理に没頭した
酢豚
コロッケ
餃子
豚の角煮…
なんか…すごい量できたぞ…
出来上がったものを呆然と眺めていると
勢いよく玄関のドアが開く音がした
雅「ただいまーっ」
俺だけのその明るい声に
それまで混沌としていた気分が
浮上していくのがわかった
昌「おかえり」
雅「遅くなってごめんなさいっ」
玄関に向かうと急いで上がって来た雅紀が
俺にぎゅっと抱き着いた
今日一日の事なんて綺麗に忘れるくらい温かい
雅「あれ?なんか…いい匂いする…」
あ…やべ…
昌「いや…なんでもないよ…」
さりげなくキッチンを素通りさせて
リビングに向かおうとしたのに
雅紀はそれを許さなかった
雅「何か作ったの?」
キッチンにツカツカと踏み込んでいく
雅「わぁっ…すごい…っ」
言い訳なんか考え着かないうちに
雅紀は大量の食べ物をみて目を丸くしていた
雅「昌宏さん…これ…」
昌「いや…これは…違うんだ…」
我ながら情けない言葉しか出てこない
何を言おうか迷っているうちに
雅「…ごめんなさい…」
何故か雅紀が目に涙をいっぱい溜めて俯いていた
昌「は…?え…?なんで泣いてんだよ…」
雅「だって…これ…一緒に食べるために作ってくれてたんじゃないの…?それなのに俺…皆で飲んで…食べてきちゃったから…」
とんだ勘違いをして落ち込んで泣いている
…ただイライラを沈めるために
料理に没頭してただけなんだけど…
なんで泣かしてんだ,俺…
昌「いや,違うんだよ…」
雅紀の肩に手を置くと力なく振り払われた
雅「なんで我慢するの…?いつも昌宏さん…なんでもない…って…俺に我慢してばっかり…俺が…いつまでたっても昌宏さんに甘えてばっかりだから…」
酒が入っているからか…
いつもに輪をかけて泣き虫だ…
そんなのも可愛いんだけど…
いや…泣かしてる場合じゃねーよな…
昌「まー…いいから…落ち着け,な…?」
雅紀をなんとかリビングまで連れて行きソファに座らせてから抱きしめた