第58章 ストック
Sho side
翔「…ここだよ…」
潤は無言で俺の後ろを着いてきた
時折キョロキョロとあたりを見回すけど
俺が振り向くとすぐに視線は下に落ちた
玄関の扉を開けて潤を促すと
遠慮がちに足を踏み入れる
それに続いて俺も家の中に入った
潤はぎこちなく靴を脱いで廊下に立ち尽くしていた
翔「…おかえり…」
声をかけると
躰をびくっと揺らして振り向いた
初めて…視線が絡んだ
そう思ったのは一瞬で
すぐに潤の視線はフローリングへと落ちていった
翔「いこ?」
触れられることに警戒してるみたいだから
潤には触れず
ぎゅっと拳を握ったまま
横を通ってリビングに向かった
本当は…昨日…
俺が「ただいま」って言うはずだった…
潤が「おかえり」って
笑って…少し涙を浮かべて
抱きしめてくれるはずだった
でも…今…そんな空間はどこにもない…
込み上げてくるものを抑えるために
何度も唇を噛んだ
鉄の味が舌に染みる
でも…潤は目の前に居るから…
潤が居なくなったわけじゃないから…
何度もそう言い聞かせて
未だにリビングの入り口で立ち尽くす潤に
振り向いて笑顔を見せた
翔「なんか飲む?コーヒーとか?」
潤「え…」
翔「そーだ…お土産あるんだよっ…色々買ってきたから…食おっ…ほら,座って?」
ソファを指さして俺はキッチンに入った
ここは潤の場所…
コーヒーの豆がどこにしまってあるかもよくわかんない…
潤「…俺…やるよ…」
不意に潤が入ってきて
悩むことなく冷凍庫から
新しい豆を取り出した
翔「え…?」
思い出した…!?
翔「潤!?」
思わず腕を掴むと
潤「あっ…」
びくっと必要以上に躰を反応させて
豆が床に散らばった