第49章 カカオフィズ
Ken side
酔ったかも…なんて言ってるのに
勢いよくグラスを煽るから
思わずその手を止めた
斗「っ…んっ…わっ…」
傾けたグラスを途中で止めたから
斗真の口元からパシャっとカクテルが零れた
健「あ…あぁ…ゴメン…」
思わず,口の端から零れた筋を
手で拭った
斗「健くんっ…」
躰をビクッと揺らして
慌てたように斗真が俺の手を掴んだ
健「あー…だって…零れちゃったから…服濡れるよ…」
斗「健くんの手が汚れちゃいますよ…」
言いながら,頬を赤く染めて
俺の手をおしぼりで拭いてくれた
さっきまで焼けるように痛かった胸の奥がじわっとあったかくなった気がした
誰かに優しくされたのって…
いつぶりだろう…
あぁ…昔…坂本くんが…よく俺の世話を焼いてくれたっけ…
好きになったきっかけも
そんな感じだったかな…
健「…ありがと…斗真も…」
御礼にぬれた口元を新しいおしぼりで拭った
斗「あ…すいません…もぅ…大丈夫です…」
赤くなった斗真が可愛くて
でも,俺を抱き寄せてくれた温もりが忘れられなくて
今度は自分からぎゅっと斗真に抱き着いた
斗「っ……健…くん…?」
健「少し…このままで居て…」
背中に手を回して
胸の中に納まって
落ち着く…
胸の痛みが取れていく…
目を閉じてそのまま動かないでいると
背中に斗真のあったかい手が回って
俺を包むように支えてくれた
斗真は優しい…
斗真を好きになってたら
こんなに長い間,苦しむこともなかったのかな…
なんて思った
でも…斗真が好きなのは坂本くんだし…
俺達はいわば,恋敵…という名の同士…
傷をなめ合ってるだけ
それでも…今,俺を包んでくれる存在がありがたく…
愛おしかった