第46章 ヒヤシンス
Sho side
とてもじゃないけど…
潤と二人きりで過ごす自信がなかった
小栗くんに言われたことだけが
頭の中でグルグル響いた
一人で乗るタクシーは久しぶりで
寒くて時間も長く感じる
外の喧騒を眺めながら
隣に居ない温もりに
なんとなく手を伸ばしたりした
不意にポケットが振動して
青白く光るディスプレイに
潤からのメッセージが映った
〔今日はありがとう
体調悪かった?
付き合わせてごめんね
明日食べやすいものでも作るから
仕事終わったら待ってるね
連絡待ってます!
明日仕事頑張ってね
おやすみなさい〕
俺はその画面を見つめたまま
しばらくぼーっとしていた
俺のために料理を作ってくれる潤が
当たり前の存在になっていた
でも,本来は…
きっと彼女の料理を美味しいって食べるのが潤の役目で
その彼女と結婚して
子供を作って…いいお父さんになって…
それが…“普通”なんだ
でも…そんな潤を想像するだけで
腹の中でドロドロした熱いものが湧き上がる
女の子に微笑みかける潤なんて
ドラマの中だけで精一杯
もしもあれが現実になったら…
俺はどうするんだろう…
嫌だ…
潤のそんな姿…見たくない…
小栗くんの話だって
お前には関係ないだろって
俺達は幸せなんだからほっとけよって…突っぱねることだって出来たはずだった
でも…自信をもって…
潤も幸せだって言えなかった
小栗くんに「幸せだよ…」と言いながら
俺に抱き着いて来た潤の腕は
不安でいっぱいだったから…
そして,それを俺にはどうしてやることもできなくて
「潤の将来」を言われたら…
潤を本当に好きなら…
潤を幸せにする方法を考えなきゃいけない…
でも…俺は潤を手放せるのか…
その狭間で胸がギュッと苦しくなった