第3章 ドルフィン*Dolphin*
<潤>
さっき見た雅紀の手が頭から離れないまま
買ったばかりの漫画雑誌を片手に
潤は屋上に向かっていた
朝病室から見えていた外はキレイに晴れていた
少し外の空気を吸えば
ぐるぐるとするこの悩みも何か糸口が見つかるかもしれない
そう思って屋上のドアを開けると
潤「あ…」
そこには先客がいた
ベンチに座って仲良さそうに話している智と和也
智「―――」
距離があるから
言葉まで聞き取れないけど
智が和也に笑いかけて
吊ってない方の手が和也の前髪に触れた
その途端に薄らと赤くなる和也の頬
それと同時に潤の顔も熱くなった
恋愛やら友情と細かいこと抜きにして
好意を持っていた人たちのこういうところを見てしまったこと
そして…和也に触れる手を見て
自分に触れたあの手がさっきより鮮明に蘇る…
ただ仲が良いだけなのかもしれない
でも…2人はこの間も一緒にここにいた
潤は静かに建物の壁に背を預けて2人を眺めた
その後も何度か2人は触れ合う
そして暫くして和也が傍らに置いていた白衣を手に立ち上がった
それを見て潤もゆっくりと自分の病室に戻る
買ったばかりの漫画は読めなかったけど
さっきまで見ていた2人に自分と彼を重ねて
潤の中でもっと…あの人に会ってみたい…あの人の手でもう一度…そんな思いが強くなった
病室のベッドの上で潤は
キレイに畳んであったバンダナを口元にあてて
その香りをすぅっと吸い込んだ