第3章 ドルフィン*Dolphin*
〈潤〉
一晩寝ても潤の頭の中は
知らない誰かのことでいっぱいだった
自分にそんなことをするということは
少なからず好意を持ってるはず…
そう思うとなんだか胸が高鳴った
知ってる人なんだと思う…
なんとなくそんな気がしていた
いないと思ってた翔が昨日トイレにいた事
看護師の斗真から香る匂いがなんとなく似ていた事
他に…
雅「潤ちゃん?ど,どーしたの??」
潤「ぅわっ…」
目の前に雅紀の顔があって
気づかないうちに潤は売店にいた
雅「ひどいな,人の顔見て…」
潤「ご…ごめん…」
妙な沈黙が二人を包む
雅紀はこの前,病室にお見舞いに行ったときに
潤の体調が悪そうで,ずっと心配していた
逆に潤はその時
躰に籠もった熱を早く処理したくて
雅紀を追い返してしまったことを後悔していた
潤「あ,あの…この前…ごめん…せっかく来てくれたのに…」
俯きながら言う潤に雅紀はぶんぶんと手を振った
雅「あっ,いやっ…全然っ…もう体調大丈夫なの!?あんまり顔色よくないよ?」
潤「あ…う…うん…まぁ…大丈夫…」
まさか“寝込みを襲われて悩んでる”なんて言えない
しかも…その顔も知らない相手にドキドキしてる…なんて…
雅「…何か…悩み事?」
雅紀の真っ直ぐなガラスの瞳に見つめられると
潤はいつもドキドキする
整った綺麗な顔
目尻いっぱいに皺を寄せる
包むようなあったかい笑顔
男らしい綺麗な手
潤「あ…」
潤は思わずその手を見つめた
細くてしなやかだけど
少し骨張った…男っぽい手…
自分に触ったのはこんな手だったかもしれない…
雅「潤ちゃん??」
名前を呼ぶ雅紀を見つめると
ふっと視線がそらされた
潤「ねぇ…昨日さ…」
「相葉さーんっ」
店の奥から雅紀を呼ぶ後輩の声がして
雅紀がびくっと躰を揺らした
潤「あ…あのさ…」
雅「潤ちゃん,これでしょ?いつもの漫画っ!発売されてるよ?」
潤の言葉は雅紀の笑顔にかき消された
潤「うん…ありがとう…」
潤は手渡された分厚い漫画雑誌を片手に
後輩と楽しそうに笑い合ってる雅紀を
しばらく眺めていた