第3章 ドルフィン*Dolphin*
<智>
潤は滞った想いを気分転換しようと
いつもの屋上のベンチに向かった
潤「あ…」
ベンチには先客がいて思わず足を止めた
智「あ…松潤っ」
智がいつものようにスケッチブックを片手に顔を上げた
潤「ごめんね,邪魔した…?」
智のはす向かいに
レンガの上に腰かけた白衣の和也医師がいた
和「そんなことないですよ?ちょうどよかった…潤くん,変わってもらえます?」
和也医師が立ち上がって俺の躰を支えながらレンガの上に座らせた
智「せんせー,約束が違うだろ?」
和「私も仕事があるんでね?また今度…」
そう言って笑いながら屋上から出て行った
潤「あの…変わりって…?」
戸惑いながら声を掛けると
智は照れたように潤を見た
智「でも…実は松潤も描いてみたかったんだよね…」
潤「え…?」
智はおもむろに立ち上がって
潤の顔に手を伸ばした
潤「え…え…?大野さん…??」
智「あぁ…ごめん…オイラ,描くときは対象の素材を手で確かめてから描くんだ」
言いながら智の指が潤の顔を滑っていく
その感触に潤の躰はふるっと震えた
潤「あ…あの…」
智「よし,次のモデルは松潤ね?綺麗な顔だから描きがいがあるなっ」
智はウキウキしながら
スケッチブックの真っ白なページに鉛筆を滑らせた
潤「え…っと…大野さん…」
智「動いちゃダメっ…そのまま…」
立ち上がろうとすると鋭い声と視線に
潤は動けなくなった
時折上がる視線が
潤の肌に鋭い刺激を与えた
潤は日が暮れるまで
智のガラス玉のような瞳に
釘づけにされていた