第3章 ドルフィン*Dolphin*
<潤>
朝の検温も終えて
潤は病室のベッドの上で一人考え込んでいた
目覚めたとき…
もしかしたら夢だったのかもしれないと思ったあの感触は
しっかり唇に残っていて…
昨夜寝ている潤にキスをした相手は誰なのかが気になって仕方なかった
その相手が女だろうと男だろうと
寝込みに勝手に唇を奪われたことに
“ふざけんな”と殴りかかるつもりなんて潤にはない
だって見知らぬ相手にキスをされているという一瞬の怖さは確かにあったけど
その後に残っているのは微かな甘さと優しさで…
そこに嫌悪感なんてものはカケラもないから
だからこそ誰なのか知りたいのに…
ココは人物が多すぎてさっぱりわからない
面識の有無に関わらず
入院患者もいっぱいいるし
医者や看護師だっていっぱいいる
夜勤の人なら夜中病室に来る事は簡単なことで…
潤「まあ…翔さんは外れるのか…?」
唯一…コーヒーをもらって以来話すようになった翔を含め清掃員の人たちは夜中に院内にはいないだろうけど
でも売店の勤務体制なんてわからないから
しょっちゅう訪れる売店の店員だって充分に可能性はある
潤「あー…わかんね…」
小さく呟いたとき細く開いた窓から心地よい風が病室内に入り込んできて
潤は深く息を吐きながら
たった今までの思考を振り切るように
ベッドの上で躰を伸ばすと
傍らに立てかけてあった松葉杖に手を伸ばした
それに支えられながら立ち上がって…
それなのに振り払ったはずの考えがまた浮上してくる
またあの人に会いたい…
あの甘い唇をもう一度感じたい
そして今度こそ誰なのか知りたい
単調な入院生活に訪れた刺激に
少しドキドキしているのを自覚しながら
一歩踏み出した