第28章 みかん
リビングでひたすら下ごしらえができるのを待ってた。
カズヤが、俺の傍に来て座った。
「ねえ、翔…」
「ん?」
「俺って…幸せものだね」
「え?」
「たくさん、愛してもらって幸せだよ」
そう言って、にっこり笑った。
もうカズヤの顔には、あの寂しそうな影はどこにもなくて。
年相応の表情をした男の子が、本当に嬉しがってる顔がそこにあって。
「ん。おいで」
そう言って膝に乗せて、ぎゅっと抱きしめた。
「ずっとずっと、愛してるよ。カズヤ」
「翔…」
カズヤは俺にぎゅっとしがみついた。
「俺、生きててよかった…」
そのまま、俺の肩口に顔を埋めてしまった。
小さく肩が震えていた。
キッチンからニノが顔を出した。
俺たちをみて、少し影のある顔をした。
俺が、大丈夫と目で伝えると少し安心した顔をした。
俺はカズヤを抱えてリビングを出た。
俺の書斎に入って、ソファに腰掛けた。
そのままカズヤが泣き止むまで、じっと背中をさすってやった。
もっと幸せを噛み締めろ。
その味が、おまえを強くしていくから。