第28章 みかん
ふとニノを見たら、涙ぐんでた。
「ど、どうした?ニノ?」
ニノは俺の手をひっぱってキッチンを出た。
そのまま洗面所まで一気に連れていかれた。
入ってドアを締めると、ぎゅっと俺に抱きついた。
「か、カズヤが実家の事、初めて喋った…」
「あ…」
思えばそうだった。
カズヤの口から、実家のことは聞いたことがなかった。
今、あまりにも自然に喋ったから、俺はそんなことにも気づかなかった。
ニノは泣いている。
「俺、嬉しくて…」
カズヤの傷が少し癒えたのだろうか。
それとも。
カズヤの中に新しく、強いカズヤが生まれてきているのだろうか。
いずれにせよ、カズヤが成長している、前進しているのがわかった。
ニノの涙は、嬉し涙。
そっと頬に手を寄せる。
涙を拭き取ると、キスをした。
「カズヤ、幸せなんだよ…」
「うん…」
そう言って、目を閉じたニノはとても綺麗で。
神聖で。
冒し難くて。
触れられないでいると、目を開けた。
その瞳は、透き通っていて。
「俺、こんなにカズヤのこと、愛してるんだな…」
そう言って笑った。
俺は抱きしめずにはいられなかった。