第27章 ワインレッドscene3
「翔くん!アレみて!」
車窓を指さし、子供のように潤がはしゃいだ声を出す。
俺達はオフで。
今日は温泉に泊まりがけで行く。
スケジュールは俺が立てた。
でも潤にダメをくらった。
「こんなんじゃ息つまっちゃうよ!」
そう言われて、予定の3分の2くらい削られた…
すっかすかになったスケジュールに俺は少し悲しくなった。
「オフなんだから、ゆっくりしようよ。それに…」
「ん…?」
「…初めてのふたりきりの旅行なんだし」
照れに照れて潤が言うから、悲しさは吹っ飛んだ。
目的地は湯河原だ。
なんにもないところがいいと潤が言うから。
食べ物が美味しくて、いい温泉が湧く場所。
そして適度に人が居ない場所。
湯河原はちょうどいい。
「ちょっと翔くん、聞いてる?」
潤が不満げにこちらを見ている。
「おまえ…運転してんだから、全部見れるわけねーだろ…」
「あっ…じゃあみかんの最中あげない」
「あっ、潤!先に食うのかよっ」
さっき立ち寄った和菓子店で、その店の名物のみかん最中を買ったのだ。
店主さんがおすすめだったから買ってみた。
もしゃもしゃ和菓子を頬張る潤を見てると、笑いがこみ上げてきた。
「ふぁにわらてんふぁお!」
最中の皮がくっついて上手く喋れてない。
「笑わすなっ…」