第25章 ベルフラワー scene2
楽屋でも翔さんは俺に要求をしてくるようになった。
二人きりになると必ずなにかさせられた。
咥えさせられるかキスとか。
どんどん要求はエスカレートしていったが、俺はそれを拒否できなかった。
その日は、ソファに座ってる翔さんに跨ってキスをすることを要求された。
黙って俺は従った。
心がカサカサだった。
嫌だとも、恥ずかしいとも思わなくなっていた。
キスをすると、すぐに翔さんの舌が入ってきて。
習慣で、俺もそれに応える。
なにも感じなかった。
物音がして振り向くと、大野さんが立っていた。
それでも俺は、なにも感じなかった。
感じられなかった。
悲しむだろうな、とぼんやり思った。
俺は翔さんに跨ったままの姿勢で、大野さんを見つめた。
大野さんはこちらを見ていた。
じっと見ていた。
嫌われるだろうな。
もう別れを切りだされるだろうな。
大野さんの顔を見ていたら思った。
動くことはできなかった。
突然、翔さんが笑い出した。
それは地の底を這うような笑いだった。
「大野さん。潤は俺がいいんだって…わかったでしょ?」
勝ち誇ったように言った。