第23章 レイヴンscene1
収録の合間に前室から楽屋に戻った。
リップクリームを忘れていた。
カバンを開けて探していると、翔が息を切らして入ってきた。
目が合うと、俺に向かってまっすぐ歩いてきた。
「翔?」
翔は俺の手を引くと、楽屋の奥にあるシャワールームに俺をひっぱりこんだ。
「ちょっと、まずいって…」
俺は焦って出ようとしたが、翔の力が強くて押し戻された。
翔が俺に抱きつく。
ぎゅっと抱きつく。
その身体は震えていた。
「…もう…どうしたの?翔…」
「抱いて…雅紀…」
震える声で言うから、抱きしめた。
翔に負けない力で。
「嬉しい…雅紀…」
泣き声になっていた。
「どうした?翔…」
「なんでも…な…」
言ってる途中で泣いてしまう。
愛おしさがこみあげる。
きっと俺のことで泣いてる。
俺といられないから。
俺と触れ合えないから。
翔の顔を覗きこむ。
涙を唇で拭った。
唇に涙がついていたから、それも拭った。
翔はその唇を喰んだ。
そのまま舌が出てきて俺の口の中に入ってきた。
泥沼は、底なし沼になった。