第4章 navy blue scene1
それは3月のことだった。
ある日、突然、うちに雅紀が遊びに来たいと言い出した。
別に断る理由もないし、その日の予定もなかった。
ただ、心配だったのは雅紀はドラマの撮影が進行中で、疲れてないかってこと。
でも、大丈夫っていうからOKした。
きっと気分転換に酒でも飲みたい気分なんだろう、と俺は一人で勝手に納得した。
収録終わりにスーパーへ寄り、晩飯と酒の準備をする。
雅紀はドラマの撮影が1シーンだけあるっていうから、後から合流だ。
ドラマ、相当プレッシャーになってたからな…今日はリラックスしてもらおう。
多分、そのプレッシャーが1番わかるから、尚更そう思った。
マンションに帰ると、早速準備にとりかかる。
海鮮のパスタに、今日は栄養たっぷりの野菜スープを作る。
酒とつまみは、いろいろ揃えたから準備万端。
雅紀は、中華屋の息子だから味にはうるさい。
でも雅紀の凄いところは、人から出された料理は、絶対にまずいと言わないところだ。
そりゃ、カメラが回っているところでは流れでまずいっていうこともあるけど。
両親が料理屋をやっていて、食を人に提供するってことが、骨身にしみてわかっている雅紀。
とてもじゃないけど人の出してくれた料理をまずいって言えないんだ。
そういうところ、凄いと思う。
よく人は雅紀を優しいっていうけど、優しいだけって実はとても残酷。
相手のためを思わない優しさなんて、エゴだ。自己満足だ。
でも雅紀の優しさは、本物だ。
裏っかわには、相手への思いやりがあるのだから。