第4章 navy blue scene1
そんな雅紀が、珍しく自分から愚痴を吐きに来る。
俺はなるべくそれを引き出して、すっきりとさせてやろうと思っていた。
あ、そうだ。
今日は泊まっていったらどうだろう。
そうすればゆっくりとできるはず。
明日は確か、午後からだったはずだし。
雅紀さえOKなら、そうしよう。
いい考えだ、と一人納得して俺は準備を進めた。
玄関のチャイムが鳴る。
それは雅紀が来たことを告げるものだった。
通すように伝えて、キッチンに戻る。
時計をみたら、10時を回っていた。
雅紀が部屋に到着するころには、俺はパスタを茹で上げていた。
部屋のチャイムが鳴ったので、玄関まで出る。
「いらっしゃい」
「どーも。こんばんは」
「さっきも会ってるし」
苦笑いしながら雅紀が入ってきた。
その顔は、やはり少し疲れている。
「とりあえず、飲む?」
「うん。ありがと」
ビールを手に取ると、プルタブを開ける。
「お疲れ」
「お疲れぃ」
缶を合わせると、ぐいっと一口。
「かーっ。染みるねえ」
「うーっ…効くわー」
お互いおっさんみたいな声を出しながら、ビールを楽しんだ。
その後は、俺の手料理を食べながらくだらない話で盛り上がった。
やれ、あのメーカーの靴はいい、とか、あのグラビアアイドルの子の胸がでかいとか。
酒の勢いもあって、本当にくだらないことを喋った。
「あー雅紀さ、今日泊まってけば?もうてっぺん近いし」
「ああ…そうだね。松潤さえよかったら」
「俺ぜんぜん構わないから。なんなら服貸すから、明日ここから行く?」
「え、マジで?」
「うん。全然いいよ」
「でも悪いな」
「いや、疲れてるんでしょ。いいよ。ホント」
少し逡巡してから、雅紀は笑顔でそれを快諾した。
「ありがと、松潤」
「いいってことよ」
少しおどけてみせると、また笑顔になった。
でも。
肝心の愚痴を俺はまだ引き出せずにいた。