第21章 ラズベリーscene3
震える手で名刺入れを出した。
智くんのお父さんの名刺を取り出す。
今、智くんには連絡できない。
迷った挙句、お父さんに電話した。
『はい、大野です』
「お父さん…櫻井です…」
『翔くんか、どうした?』
「お願いがあって…」
『声が震えているが、大丈夫か?』
「すいません…今、写真撮られたかもしれなくて…」
『それは、週刊誌とかそういった類の?』
「はい…多分そうです…」
また吐き気がこみ上げてきた。
「今、息子さんのマンションの地下にいるんですが、動けなくなって…」
『…嫌ではなかったら、私の部下を向かわせるが』
「え?」
『大丈夫、信頼できる男だから』
「…わかりました。ご迷惑おかけします…」
『他人行儀なこというんじゃないよ。君は私の息子なんだから』
「…ありがとうございます…」
涙が止めどなく出た。
『一時間以内に行けると思うから、それまで耐えられるか?』
「はい…頑張ります」
そう言って電話を切った。
智くんに会いたかった。
会いたくてしょうがなかった。
でも今はだめだ…
必死で意識を現在に繋いでおくしか、俺にはできなかった。