第21章 ラズベリーscene3
それからしばらくして、父さんの昇進が世の中に出た。
俺の周りは一気に騒がしくなった。
前も騒がしくなったけど、その比じゃなかった。
なんとか掻い潜って、毎日家に帰っている。
智くんのマンションの駐車場に車を入れるとき、入り口の横にある植え込みで何かが光った。
とっさにカメラだとわかった。
車を入れて暫く、心臓が煩かった。
スキャンダル
その言葉が頭をよぎった。
どうしよう。
俺は座席から動けなかった。
駐車場の中は誰もいなくて。
蒸し暑い。
でも俺は動くことができなくて。
汗が背中を流れていく。
手が震える。
こわい。
失ってしまったらどうしよう。
吐き気がした。
とっさに買い物袋を空にしてそこに吐いた。
喉が焼けつくように痛い。
でも胃の中のものはまだ出たいと腹で暴れていて。
黄色い胃液が出るまで吐いた。
暑い。
身体が燃えるように熱い。
涙が出てきた。
智くん、助けて。
助けて、智くん。