第21章 ラズベリーscene3
それから一ヶ月もしないうちに、俺の周りに変化が現れた。
取材の帰り、報道のフロアに村尾さんを尋ねると、デスクの人たちが俺の顔をみてひそひそと話しだした。
やっぱり話は抜けていて。
村尾さんの顔をみたらほっとした。
「櫻井さん」
村尾さんが顔を上げた。
「お疲れ様です」
そういって差し入れを渡した。
「いつもありがとうございます。気を使わないでください」
いつもながら実直な人柄が気持ちいい。
「いえ…近くに寄ったからついでにと思って」
「そうですか。ありがとうございます」
そういって嬉しそうに紙袋を覗いている。
「もう、聞きましたか?」
「…はい。お父さんのことですね?」
「はい…もう抜けていますよね?」
「そうですね。内々とのことですが、既に抜けています」
「そうですか…」
「顔色が冴えませんね」
「そうですかね…」
俺は頬を撫でた。
「櫻井さん、そんなに心配しないでも大丈夫だと思いますよ」
「え?」
「あなたの仕事ぶりは、世間の方々はちゃんと見ています」
「は、はぁ…」
「そんなに節穴じゃないってことですよ」
そういうと、にっこりと笑った。