第3章 きみどりscene2
急いで降りて行くと、エントランスのソファーに深々とかあちゃんが足を組んで腰掛けていた。
相変わらず、なんかよくわからない薄いヒョウ柄のストールを肩にかけて、黒のタイトスカートに足元は10センチのピンヒールだった。
よくこんなもんで歩けるもんだ。
「かあちゃん」
「智。おはよ」
「おはよ。早いね。電車?」
「そんなわけないじゃない。台風よ?パパに送ってもらったの」
「とうちゃんは?」
「車で待ってるの。だからすぐ行くわね」
かあちゃんは、二つ紙袋を持っていた。
「こっちが食べ物で、こっちが和くんに」
「え?かずに?」
「黙って渡せばいいのよ」
「え?うん…」
「じゃあね。身体に気をつけて頑張るのよ、智」
「え?うん。ありがと」
カツンカツンとヒールの響きを残してかあちゃんは去っていった。
「あっ!かあちゃん!かずがよろしくって!」
そういうと、振り返りもせず手をひらひらと振って返した。
その後姿を見送って、俺はすぐに部屋に帰った。
おっかしいな。
いつも『身体に気をつけて』なんて言わないのに。
『頑張るのよ』なんて、最近とんと言われなくなったし。
子供の頃はよく言われたけど。
変なの。
かあちゃん。