第17章 ヴィンテージ・ワインscene1
一気に駆け下りてると、ドサッと頭上で音がした。
振り返ると潤が転んでいた。
酒なんか飲んで走るからだ。
床に這いつくばってこちらを見ている潤を一瞥すると、俺はまた走りだした。
これで俺は自由だ。
タクシーを捕まえて自宅へ帰る。
車中で何度もスマホが振動した。
誰かわかっているから、見ることもしない。
あんまり煩いから、電源を落とした。
明日、ショップに行って新しいものを買ってこよう。
少し目を閉じた。
10年あいつと過ごしたことを思い出そうとしたけど、なにも浮かんでこなかった。
ただ、あいつが笑ってる顔だけ浮かんできた。
ばかだな…
もうとっくに惚れてなんかない。
そういうのは終わった。
惰性と同情で一緒にいたんだ。
…そう言い聞かせようとした。
でも無理だった。
だって、こんなにも虚しい。
あいつを捨てても、一緒にいても虚しい。
身体中が空洞になったようだった。
前にも後にも進めない。
出口のないこの気持ちが、いつか安らかになる時がくるんだろうか。
今はただ、苦しい。
でも、一緒にいて虚しいより、一人で耐えたほうが、何倍もマシだと今は思う。