第17章 ヴィンテージ・ワインscene1
音のしなくなった扇風機を撫でて、部屋を出る。
玄関で靴を履いていると、この部屋の主が帰ってきた。
ガチャリと鍵が開くと、そっと扉を開ける。
後ろぐらいなら、朝帰りなんかしなきゃいい。
開いた扉の隙間から、酒に酔った顔が見えた。
俺は立ち上がってドアを開けた。
急に軽くなったドアに驚いた顔をして、潤は立っていた。
「ど、どうしたの?和也」
それには答えないで扉の隙間から外へ出た。
「え?今日仕事だっけ?」
無視して歩く。
エレベータの前まで来ると、潤が追い付いてくる。
「ちょっと…その大荷物なに?」
何も答えない。
見てもやらない。
これが俺の意思表示。
「和也…こっち見ろって」
俺の腕を強引に引く。
俺はそれを振り払って、ちょうど来たエレベーターに乗り込んだ。
「ちょっと待てって!」
構わずクローズボタンを押す。
潤は扉に手をついて、阻止した。
「…どういうつもりだよ?」
「もう…」
「え?」
「別れる」
「は?何いってんの?」
「もう無理だから」
俺はそう言って潤の横をすり抜けて走った。
非常階段の扉を乱暴に開けて駆け下りた。
潤が追いかけてくる。