第17章 ヴィンテージ・ワインscene1
気がついたら朝になってた。
部屋に人の気配はない。
玄関まで確認しに行ったけど、この部屋の主の靴はなかった。
正直、もう疲れてきた。
何度こんな夜を過ごしただろう。
いつ帰ってくるかわからないヤツをずっと待ち続けるなんて。
いっそ帰ってこないものと割り切って、ベッドに入れたらいいんだけど。
もしかしたらと思うと、できなくて。
俺は寝室にいって、自分の荷物をカバンに詰め始めた。
もうここには居たくなかった。
心がズタズタで、保たなかった。
なんの感情も湧いてこない。
10年という歳月は一体なんだったんだろう。
俺達になにか残したのか。
着替えて、長らく帰っていない自宅の鍵を確認すると玄関に向かった。
書き置きもなにも残すつもりはない。
メールだってもう返事もしない。
電話も仕事の話以外するつもりはない。
ふと思い出して、戻る。
リビングにおいてある扇風機のスイッチを切る。
静かな扇風機だが、なんの音もしない部屋においていると、やはり音が聞こえる。
ここ暫くはこいつと夜を過ごしてきた。
思った角度に出ない風を出す扇風機。
まるで俺のようで、少し愛おしかった。