第16章 ラズベリーscene2
そんな情けない日もありながら、なんとか俺の方は忙しい山を超えた。
新しい個展に向けての作品は、あらかた完成して、後は会場で作るだけ。
上海については、倉庫に入ってた物の補修はほとんど終わった。
後は原稿書きとかそんなのしかなかったから家でできるし。
借りてたスタジオにおいてあった私物も引き上げてきた。
これでなんとか、日常に戻れるかなってレベルに落ち着いた。
でも翔ちゃんは、これからが本番と言わんばかりに忙しくなって。
俺もできるだけ翔ちゃんの帰りを待ってるんだけど、気がついたら寝ちゃうくらいの時間になって帰ってくる。
恥ずかしいんだけど、起きたらベッドにいて。
多分翔ちゃんが俺のこと、抱えて運んでくれてるんだと思う。
なんか情けないな…
俺だって翔ちゃんのこと、抱っこしようと思ったらできるのに。
右膝に古傷を抱えてるから、翔ちゃんがそれをさせてくれない。
いつもにっこりわらって拒否される。
翔ちゃんをトクベツにしたいのに。
俺のトクベツな翔ちゃんにしたいのに。
翔ちゃんの居ない深夜、一人で過ごす時間がこんなに長いとは思わなかった。
今までずっと一人で過ごしてきた家なのに。