第14章 ショコラscene1
いつもの客間に通されて、奥様がコーヒーを持ってきてくれた。
スプーンに乗っている砂糖の形がハートだった。
砂糖変えたのかな?
今までスティックシュガーだったのに。
「いやぁ…」
そう言って、先生は顎に手を当てた。
「どうしたんですか?」
雅紀がまた恐る恐る訊く。
「いえね、あの、消えましたね」
「え?」
思わず声に出してしまった。
「相葉さん、昨日までね。あなたの中に女性が居たんです」
「ええええ!?」
雅紀には言いそびれて、何も言ってなかった。
本物さんのことも。
「言い難い話ですが、ちょっと時間がかかりそうな女性だったんですよ」
「そうなんですかぁ!?だって、落ち武者って…」
「ええ、相葉さんが怖がると、あまりよくない状況でしたから、あえて嘘をお教えしました」
「雅紀、話聞こうよ」
横からそっと手を握った。
先生に見えないように。
「その女性は…遊郭で働いていた遊女で。不幸な死に方をしました」
途端に雅紀の顔が真剣になった。
「心中したんですが、相手の男性は生き残ってしまったんです」
雅紀が俺の手を握り返してきた。